漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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木蠟

○木蠟(もくろう)

 日本の東海地方以西、台湾、中国、東南アジアなどに分布するウルシ科の落葉小高木ハゼノキ(Rhus succedanea)やヤマハゼ(R.silvestris)の果実から得られるロウ状の物質を用いる。中国ではハゼノキの根を林背子というが、あまの果実は薬用にしない。

 かつては果実から木蠟をとるために広く栽培され、木蠟はロウソクやポマード、織物のつや出しなどに利用された。幹や枝にアレルギー性物質を含むため、汁液が肌につくとウルシかぶれに似た皮膚炎が生じる。

 ロウを製する方法は室町時代にすでに中国から日本に伝わっていたが、それとは別に江戸中期に沖縄を経由して薩摩にも伝わり、九州各地でハゼノキが盛んに栽培されるようになった。

 ロウの作り方は、まず採取した果実をせいろうで蒸して爛らかせ、臼でついて生蠟とする。さらに太陽光線でさらすと晒蠟(白蠟)になるが、これを木蠟という。

 成分は主にパルミチン酸のグリセリドである。医療用には蜜蠟の代用として軟膏、坐薬の基剤として用いる。ハゼノキの根皮(林背子)を煎じたものは止血や腫れ物の解毒に用いる。

木防已

○木防已(もくぼうい)

 中国、台湾、日本に分布し、日本の本州、四国、九州などに普通に見られるツヅラフジ科の落葉つる性植物アオツヅラフジ(Cocculus trilobus)の根茎および根を用いる。若いつるの部分が青いためにアオツヅラフジの名がある。

 中国でもアオツヅラフジの植物名を木防已というが、今日、中国市場で木防已として流通しているのは主にウマノスズクサ科の広防已(Aristolochia fangchi)や漢中防已(A.hetrophylla)の根といわれている。現在、日本では木防已の市場性はなく、一般には利用されていない。たとえばエキス剤の木防已湯にも木防已ではなく、防已(漢防已)が配合されている。

 アオツヅラフジにはトリロピンやトリロバミン、マグノフロリンなどのアルカロイドが含まれ、解熱、降圧などの作用が報告されている。一方、ウマノスズクサ科の広防已や漢中防已な含まれるアリストロキア酸は腎障害を起こすことが報告されている。

 いずれも漢方では利水・止痛の効能があり、浮腫や脚気、関節の水腫や疼痛などに用いる。これらの効能は防已(漢防已)とほぼ同じであるが、止痛作用は木防已のほうが優れ、利水作用は漢防已のほうが優れている。

木鼈子

木鼈子(もくべっし)

 中国南部から東南アジア、インドなどに分布するウリ科のつる性一年草ナンバンカラスウリ(Momordica cochinchinensis)の成熟種子を用いる。

 直径10cmくらいの楕円形の赤く熟した果実の中に直径2~3cmの円盤状の種子ができる。その種子の表面が凹凸で灰褐色をしており、別甲(鼈甲)に似ているため木鼈子の名がある。

 漢方では消腫・止痛・解毒の効能があり、可能性皮膚疾患やリンパ腫、痔などに用いる。丸薬や散薬として内服することもあるが、おもにすりつぶした粉末や煎液を外用薬として用いる(阿魏化痞膏)。

 たとえば痔、乳腺炎、腫れ物などでは、腫れて痛む炎症部位に塗布する。また咽頭炎には山豆根・木香を配合した粉末を咽に吹き付けたり、歯痛にはつぶしたものを酢で練って湿布する。

木天蓼

○木天蓼(もくてんりょう)

 日本各地、朝鮮半島中国東北部などに分布するマタタビ科の落葉つる性植物マタタビ(Actinidia polygama)の果実の虫癭(むしこぶ)を用いる。中国ではマタタビの枝葉を木天蓼といい、果実の虫癭を木天蔓、虫癭でない果実を木天実という。

 マタタビの花の子房にマタタビアブラムシが産卵し、そのため実は異常発育して凹凸不整の虫癭となる。マタタビの葉や茎、果実に含まれるマタタビラクトン(イリドミルメシンとイソイリドミルメシンの混合物)はネコ科の動物を興奮させ、陶酔状態にし、唾液分泌を促進する。このためマタタビは猫の好物としてよく知られている。また塩基性物質であるアクチニジンの鎮痛作用や精線に対する作用なども報告されている。

 虫癭にはマタタビ酸やイリドジオールの多種の異性体が含まれる。日本の民間療法では虫癭には体を温める作用があるとして、健胃薬、強壮薬、腰痛や神経痛の治療薬として用いている。木天蔓にも同様の効果があるとされている。

 また虫癭を木天蓼酒や浴湯料に利用するほか、猫の万病薬としても知られている。本来の果実も果実酒や塩漬けにして食用にされている。中国でもマタタビの枝葉などを酒に入れた木天蓼酒(太平聖恵方)は有名で、脳卒中による半身不随や構音障害に用いられている。

 ちなみにマタタビの語源はアイヌ語のマタタンブ(冬にぶら下がっているツトという意味)といわれ、疲れきった旅人がマタタビの実を食べて「また旅」に出たという語源説は疑わしく、その強壮効果も定かではない。

木通

○木通(もくつう)

 日本の本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するアケビ科の落葉つる性本木、アケビ(Akebia quinata)の茎を用いる。アケビの果実は八月札あるいは預知子という。

 中国ではこのほか同属植物のミツバアケビ(A.trifoliata)や白木通(A.trifoliata var.australis)などの茎も用いる。ただし中国市場ではウマノスズクサ科を基原とする関木通(Aristolochia manshuriensis)やキンポウゲ科の川木通(Clematis armandi)が一般的な木通として流通しているが、関木通には副作用があるため注意が必要である。

 日本市場の木通は徳島や香川などの国内産のアケビで自給されている。アケビの名は実が開くことに由来し、果実の中には黒い種子が多数並び、半透明の果肉に包まれている。果肉は甘味があり生食でき、実の開いていない果皮も料理に用いられる。またミツバアケビのつるは丈夫なため椅子や籠、敷物などに利用される。

 アケビの茎にはサポニン類のアケビオシドやトリテルペノイド類のヘデラゲニン、オレアノール酸などが含まれ、利尿、抗炎症、抗潰瘍、脂質降下などの作用が認められている。

 漢方では清熱・利水・通淋・通経・通乳の効能があり、膀胱炎や浮腫、湿疹、月経不順、母乳不足などに用いる。中国医学では木通には「湿熱の邪を下行して小便より出す」とか、「九竅、血脈、関節を通利する」作用があると説明している。

 日本の民間では木通をキササゲと一緒に煎じてむくみに用いたり、木通の煎液で腫れ物を洗うという方法がある。また新葉を焙じてアケビ茶とし、保健茶としても利用されている。ちなみに神農本草経や傷寒論に記載されている通草とは木通のことであり、現在、通草と称しているものはウコギ科のカミヤツデ(Tetrapanax papyriferum)の髄のことである。

木賊

○木賊(もくぞく)

 北半球の温帯に分布するトクサ科の常緑シダ植物トクサ(Equisetum hyemale)の茎あるいは全草を用いる。日本では中部地方以北の山中の湿地に自生し、茎は濃緑色でまっすぐに直立している。スギナと同属のシダ植物の一種で、園芸植物としても利用されている。

 トクサの表皮には多量の硬い無水ケイ酸が含まれ、これを木材や金属、骨や工芸品などの研磨に用いたため「研草」と呼ばれ、また木を傷めることから木賊の名がある。

 成分には無水ケイ酸、パルストリン、ジメチルスルフォンなどが含まれる。漢方では明目・退翳の効能があり、おもに眼科の治療薬として知られ、結膜炎など風熱による充血やかすみ目、角膜混濁、流涙症などに用いる。

 結膜炎など涙が止まらないときには菊花・夏枯草などと配合する(収れ涙飲)。日本の民間では収斂・止血薬として痔出血や腸出血、月経過多、下痢などに煎じて服用する。また浮腫や淋病のときの利尿剤としても用いる。そのほか痔や脱肛、眼病などに煎液で洗浄する方法もある。

 一般に欧米では、スギナをホーステイル(Horsetail)として利用しているが、トクサもホーステイルと呼ばれている。

木蝴蝶

○木蝴蝶(もくこちょう)

 インドから中国南部の山野に自生するノウゼンカズラ科の高木、ソリザヤノキ(Oroxylum indicum)の種子を用いる。

 種子は半透明の膜質の翼によって包まれ、4×7cmくらいの大きさの楕円形で、あたかも蝶のような形をしているため木蝴蝶の名がある。種子には脂肪油があり、オレイン酸(80%)やバイカレイン、オロキシンA・Bなどが含まれる。

 漢方では潤肺・止咳・舒肝の効能があり、咳嗽や嗄声咽頭痛、腹痛などに用いる。また傷口を収斂する作用もあり、煎液で外用する。マレーシアでは樹皮を健胃・止血・強精剤として用いる。