漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

スポンサーリンク

大麻

○大麻(たいま)

 中央アジア原産のクワ科の一年草アサ(Cannabis sativa)の雌株の未熟果穂をつけた枝先や葉を用いる。本来、この植物をアサ(麻)と呼んでいたが、いつの間にか繊維植物の総称として麻というようになり、現在では亜麻や苧麻の繊維のことを麻と表示するようになった。このためアサのことをタイマ(大麻)と称して区別している。

 紀元前20世紀には中東地域で栽培され、紀元前に中国に伝わり、日本にも弥生時代にすでに栽培されていたと考えられている。古くは大麻を苧と称し、戦前までは日本各地で栽培され、現在でも栃木県では「とちぎしろ」と呼ばれる品種が栽培されている。

 アサの茎を収穫し、蒸して皮を剥ぎとり、さらに加工して細くほぐして麻糸とする。この麻糸は織物、ロープ、魚網などに利用される。アサの種子は生薬の麻子仁で、一般には苧実とか麻実とも呼ばれて七味唐辛子や小鳥の飼料、製油原料などにも用いられている。一般に麻の穂や葉などには幻覚物質が含まれるが、その含有量は品種によって異なり、日本の栽培品種にはほとんど含まれない。

 幻覚薬の大麻として用いるのは熱帯品種のインドアサ(C.indica)であり、東南アジアやメキシコなどで栽培されている。ところがこの大麻を温帯で栽培すると樹脂を含まなくなるという。米国では繊維作用として品種改良してアサをヘンプ(hump)と呼び、麻薬性のある品種をカナビス(cannabis)と呼んで区別している。

 インドでは紀元前9世から医薬用として用いられた。その後、回教徒によって各地に伝えられて、アラビアでは幻覚薬として知られ、17世紀にはヨーロッパでも薬として用いられるようになった。しかし東南アジアの民間では鎮静薬とするのみで、麻薬的には使用しない。

 中国の本草書では麻蔶、麻花、麻葉などの名で収載され、神農本草経には「多食すると人を狂い走らせる」とある。2世紀ごろの外科医、華陀は大麻を配合した麻沸散で全身麻酔をかけ、開腹手術などを行ったと伝えられている。ただし、漢方では種子の麻子仁は用いても、大麻はあまり利用していない。麻薬として用いる大麻の乾燥した葉などはマリファナと呼ばれ、琥珀色の樹脂を粉にしたものをハシシュという。一般に内服よりも喫煙のほうが効力は強い。

 葉にはカンナビノイドのテトラヒドロカンナビノール(THC)などが含まれている。このTHCには鎮静・鎮痛・多移民・麻酔作用とともに幻覚などの精神作用がある。大麻を喫煙すると身体的には頻脈、目の充血、口渇作用がみられ、精神的には多幸感、感覚の変化、注意力低下、被暗示性亢進、さらには非現実感、幻覚、妄想なども出現する。一般に精神的依存はあるが、身体的依存はないとされている。つまり弱いながらも習慣性があり、慢性中毒では無気力となる。

 現在、大麻に関する規制は国や州によって異なり、オランダやスイスなどは比較的自由であるが、日本では大麻取締法により栽培や使用が規制されている。