漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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肉豆蔲

○肉豆蔲(にくずく)

 モルッカ諸島原産の常緑高木であるニクズク科の常緑高木ニクズク(Myristica fragrans)の種子を用いる。現在ではマレーシアやインドネシア、東アフリカ、西インド諸島などの熱帯地方でも栽培されている。

 桃に似た5~9cmの果実の中に3cmくらいの仮種皮に被われた一つの種子があるが、この仮種皮および堅い種皮を除いたものが肉豆蔲、つまり香辛料のナツメグである。この仮種皮は香辛料のメース(Mace)であり、橙色の網目状のため中国では玉果花あるいは肉豆蔲衣と呼ばれている。両者には同じような芳香があるが、メースの香りのほうが強い。ナツメグハンバーグなどの挽肉料理、メースは焼き菓子などに利用されるスパイスである。

 ニクズクは古代インドで頭痛薬や胃腸薬として有名であり、インド伝承医学アーユルヴェーダではとくにメースを盛んに使用した。さらに10世紀にはアラビアで、16世紀にはヨーロッパでも万能薬として用いられた。中国では宗代の「開宝本草」に初めて収載され、豆蔲に似ていることから名付けられた。豆蔲というのはショウガ科の白豆蔲のことである。

 種子にはミリスチシン、カンフェン、ピネン、オイゲノール、サフロールなどが含まれ、独特の芳香がある。種子やニクズク油には幻覚や知覚障害を引き起こす有毒作用があり、この成分はミリスチシンといわれている。

 漢方では温裏・収渋・理気の効能があり、消化不良、腹痛、下痢、嘔吐などに用いる。とくに胃腸の虚寒や気滞のために腹部が膨満して痛み、嘔吐や食欲不振、下痢などが続くときに用いる。たとえば早朝になると下痢する症状には補骨脂・五味子などと配合する(四神丸)。家庭薬の太田胃酸やパンシロンなどの胃腸薬にも配合されている。

 一般に急性の下痢や炎症性の下痢には用いない。多量に服用すると痙攣や幻覚を生じ、肝臓障害ひきおこすことがあり、また過去には堕胎薬として用いられたこともある。

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