漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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巴豆

○巴豆(はず)

 中国南部から東南アジア、インドに分布するトウダイグサ科の常緑亜高木、ハズ(Croton tiglium)の種子を用いる。種子の大きさは1.5cm弱で、灰褐色の扁平楕円形である。巴蜀四川省)に産することから巴豆といわれる。

 種子の35~60%は脂肪油で、これを巴豆油あるいはクロトン油(Croton oil)といい、おもに工業用に利用される。巴豆油はクロトン酸、チグリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸オレイン酸などを含む。このほかジテルペノイドのフォルボールエステルは強烈な皮膚刺激作用があり、また発癌プロモーターとしても知られている。

 たとえばマウスに微量の発癌剤を1回塗布した後、同じ部位に巴豆油を繰り返し塗布すると癌が発生することが報告されている。また種子にはクロチンといわれる毒性タンパク質も含まれている。このため巴豆油を内服すると口腔内に灼熱感があり、嘔気や嘔吐、激しい下痢が出現し、ときには死亡することもある。しかし漢方では古くから薬用とされ、食積を下し、浮腫や腹水、痰を除く効能がある。

 神農本草経にも「五臓六腑をし、閉塞を開通し、水殻道を利す」とある。巴豆の毒性を緩和するため、巴豆を挽き砕き、何度か給水紙で圧搾して油を除き、細かくしたものを巴豆霜と称して用いることもある。

 巴豆は峻下薬であるが、大黄などと異なり性質が熱であり、寒積による便秘や腹痛、腹水などに用いる。このため大黄やヒマシ油になどで瀉下効果かがない場合に奏功することがある。そのほか痰の多い肺疾患や肺水腫、ジフテリア脳卒中、食中毒などで危篤状態のときに起死回生薬として用いられた(走馬湯)。  巴豆剤を用いたために下痢が止まらなくなったときには冷水を飲ませると止まるといわれる。また外用では排膿促進に用いられる。日本でも近年まで巴豆の配合された紫円が食中毒などに使用されていたが、現在ではほとんど利用されていない。また巴豆は日本住血虫の中間宿主である宮入貝を絶滅させるのに効果があると報じられている。