漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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附子

○附子(ぶし)

 北半球に広く分布するキンポウゲ科多年草トリカブト属の子根を用いる。トリカブト属は毒草として世界的に知られ、古くから毒殺に用いられたり、アジアではアイヌ民族などで矢毒としても利用されていた。インドや中国では古代より薬用としても応用され、「ビシュ」というインドのトリカブトの呼称が「附子」の語源という説もある。

 トリカブト属は種類が多く、日本だけでもヤマトリカブト(Aconitum japonicum)、カラフトブシ(A.sachalinense)、ホソバトリカブト(A.senanense)など50種余りの種類があるといわれている。国産の野生の株から得られる生薬はおもにヤマトリカブト(オクトリカブト)が用いられている。中国の四川省などで栽培されている品種はカラトリカブト(A.carmichaeli)である。

 トリカブトという名は花の形が雅楽を演奏するときに被る鳥の形をしたかぶりものに似ていることに由来する。薬用として根を用いるが、根には附子・烏頭・天雄などに区別される。一般にトリカブトの根は、茎に続く塊根(母根)があり、その周囲に数個の新しい塊根(子根)が連生している。この根の母根を烏頭、子根を附子、また子根の生えてない細い根を特に天雄という。

 塊根の形が烏の頭に似ていることから烏頭、母根に付着した根ということから附子、子根がないのは天性の雄ということから天雄という名がある。しかし、現在では日本ではこれらを区別せずに附子といっている。また中国では減毒処理されていないものを烏頭、減毒処理したものを附子と称している。

 附子を薬用にするために古くから減毒する方法が考案されてきた。たとえは生の附子をニガリと食塩との混合液に浸した後に日干しする。これを塩附子という。一方、ニガリ液に数日間浸した後に煮沸などの加熱処理を加えたものを炮附子という。

 日本では塩水に浸した後、石灰をまぶして乾燥させたものを用いているが、これは白河附子として知られている。近年、日本では2気圧の降圧下で120℃の水蒸気による加熱処理を20~30分間行い、さらに品質や力価を一定にするために粉末として加工ブシ末が開発されている。

 トリカブトの成分には毒性の強いアコニチン、メサコニチン、ヒパコニチン、低毒性のアチシンなど数多くのアルカロイドが含まれている。アコニチンは加水分解を受けると、ベンゾイルアコニンからアコニンへと変化し、毒性は著しく減じる。薬理的にはアコニチン、メサコニチンなどの鎮痛作用、アコニチン類やヒゲナミンなどの強心作用、アコニチンの血管拡張作用などが知られている。附子の薬理作用として鎮痛作用、抗炎症作用、強心作用、血管拡張作用、新陳代謝促進作用などが報告されている。

 一方、トリカブトの中毒症状として、口舌のしびれ、嘔吐、下痢、流涎がみられ、運動麻痺、知覚麻痺、痙攣、呼吸困難、心伝道障害などが出現視、死に至ることも少なくない。漢方では大熱の性質があり、補陽・温裏・止痛の効能がある。

 一般には陽虚の状態、つまり老化や疾病により全身の機能が衰退し、脈の微弱や身体の冷えが現れたときに用いられる。また、冷えによる痛みや風寒湿による伊丹にも用いられる。たとえば下半身の冷感や倦怠感、下痢、浮腫、腹痛、腰痛、関節痛、リウマチ、ショック状態などに用いる。

 臨床的に附子中毒を予防するために、他の生薬とは別に先に煎じることが必要で、一般に60分くらい煎じる。また溶液の煎じる温度やpHによってもアルカロイドの抽出量に差があるため、附子の使用量が同じでも煎じ方や配合生薬によっても副作用の出ることがある。

 服用に関していえば、消化管内のpHが上がればアルカロイドの吸収が促進される。一般に空腹時より食後のほうが吸収されやすく、また低酸症や潰瘍治療薬を服用している人に副作用が出やすいといわれている。