漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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牡蠣

○牡蠣(ぼれい)

 日本や朝鮮半島、中国など近海に生息するタイボガキ科のマガキ(Ostreagigas)をはじめとして、中国では近江牡蠣(O.rivularis)、大連湾牡蠣(O.talienwhanensis)などの貝殻を用いる。

 カキ全体を指して牡蠣と書くが、牡蠣とは本来、カキの貝殻のことである。中国ではカキの肉を蠔(hao)と書き、生薬としては牡蠣肉という。日本では「カキ肉」と呼ばれている。カキは二枚貝であるが、岩などに付着するため左右の殻の形は異なり、殻の表面は波上にざらざらとしている。

 カキは世界中で食用にされ、ヨーロッパでは紀元前より、日本では江戸時代より養殖されている。カキの殻は薬用とする以外に、粉末にして小鳥の飼料などにも用いる。

 主な成分は炭酸カルシウム(CaCO3)であるが、リン酸カルシウムなどの無機塩、鉄、アルミニウム、アミノ酸などが含まれる。また免疫増強活性を有する多糖類が報告されている。薬用のボレイ末は他にカルシウム剤として使用されているが、漢方では牡蠣は代表的な重鎮安神薬のひとつであり、また平肝潜陽の作用もある。

 重鎮安神・平肝潜陽というのは質量が重く、気を鎮める作用であり、不安、動悸、不眠などの不安神経症、頭痛、眩暈、耳鳴、煩躁などの興奮状態(肝陽上亢)に効果があることを意味している。

 そのほか収斂薬として止汗・固精・止帯・止渇の効能、リンパ節腫脹を治療する軟堅散結の効能、制酸作用による胃痛の改善作用がある。牡蠣を生で用いると鎮静・軟堅の作用が、焼いて(煅牡蠣)用いると収斂・固渋の作用が強い。

 重鎮安神薬の竜骨と効能は似ているが、安神作用は竜骨のほうが牡蠣より強い。また牡蠣が胸腹の動悸に有効であるのに対し、竜骨は臍下の動悸有効である。両者はしばしば併用され、そりにより鎮静・固渋の作用が増強される。