漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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無花果

○無花果(むかか)

 小アジア原産のクワ科の小高木イチジク(Ficus carica)の果実を用いる。中国では葉を無花果葉というが、日本では慣例的に唐柿葉と呼んでいる。

 イチジクは旧約聖書の創世記の中に登場するもので、栽培果樹としては世界最古の歴史を有する。中国には唐代になってから伝わり、日本には江戸時代に中国から渡来した。また20世紀のはじめにはアメリカから西洋イチジクという品種も導入された。

 ペルシア語「アンジール」から、中国語の映日(イェンジェイ)と音写されて「果(クォ)」が加えられた「映日果」が、イチジクの名の由来と考えられている。また唐柿とか南蛮柿という別名もある。

 無花果の名は外見上、花がみられないのに果実ができることにちなむが、実は果実と呼ばれるものが花托とその内面に密生する多数の花からできたものである。成熟した果実には豊富な栄養分が含まれ、食用にされる。とくに西洋では古くから好んで食べられ、地中海沿岸地方の干しイチジクは有名である。

 イチジクの果実には果糖やブドウ糖などの糖分、クエン酸などの有機酸、植物生長ホルモンのオーキシンベンズアルデヒドなどが含まれ、食物性の緩下作用が知られている。未熟果実や茎、葉からは白い乳液が出るが、これにはベンズアルデヒドやその誘導体が含まれ、制癌作用があると報告されている。葉にはクマリン類のベルカプテンやプソラレンが含まれ、血圧降下作用がある。

 漢方では清熱解毒・潤腸の効能があり、咽頭痛や声嗄れ、便秘、痔や腫れ物などのときに用いる。乾燥したものを煎じて服用するほか、果実を生で食べてもよい。また新鮮な果実から出る白乳液は外用薬として疣や痔の治療に用いる。ただし生の汁はかぶれやすいので注意が必要である。

 一般に痔の治療に葉を煎じた液で洗浄する方法がよく知られている。葉や枝を浴湯料として用いると、痔のほかにも神経痛や婦人病に効果がある。また生の葉を煎じたものはウジ殺しにも利用された。