漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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防已

○防已(ぼうい)

 日本ではツヅラフジ科のオオツヅラフジ(Sinomenium acutum)の茎や根茎を防已あるいは漢防已といい、アオツヅラフジ(Cocculus trilobus)の茎や根茎を木防已という。

 中国産の防已(漢防已)の基原植物はツヅラフジ科のシマハスノハカズラ(Stephania terandra)やアオツヅラフジなどである。中国市場で流通している木防已としては、ウマノスズクサ科の広防已(Aristolochia fangchi)や漢防已(A.heterophylla)が主な基原植物である。ちなみに日本産の防已であるオオツヅラフジの茎を中国では青風藤として扱っている。

 しかし、近年、日本でも中国でも漢防已と木防已とはあまり区別しなくなり、今日では生薬の木防已はほとんど用いられていない。たとえば木防已湯のエキス剤でも木防已ではなく漢防已が配合されている。現在、日本に中国産の防已は輸入されておらず、日本薬局方に規定されているオオツヅラフジのみが基原植物として用いられている。

 オオツヅラフジの茎にはシノメニン、アクツミン、ツナクチン、マグノフロリンなどのアルカロイドが含まれ、シノメニンの鎮痛・抗炎症作用はよく知られている。シマハスノハカズラにはテトランドリン、フェンチノリンなどのアルカロイドが含まれ、やはり鎮痛・消炎作用が報告されているが、シノメニンには含まれていない。近年、ウマノスズクサ科の植物を基原とする防已のアリストロキア酸による腎障害が報告されている。

 漢方では防已や青風藤には去風湿・利水消腫の効能があり、浮腫や関節水腫、脚気、関節痛、腫れ物、湿疹などに用いる。ただし中国医学では青風藤(日本産の防已)は去風湿薬に、防已(中国産の粉防已)は利水薬に分類している。すなわち青風藤は粉防已よりも止痛作用が優れているが、利水作用はやや劣ると考えられる。