漢方生薬辞典

約780種の生薬を五十音順に紹介。日本の漢方薬や伝統薬に配合されている和漢生薬、民間薬、ハーブなども紹介。

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木槿皮

木槿皮(もくきんぴ)

 中国、インドを原産とし世界各地に植栽されているアオイ科の落葉低木ムクゲ(Hibiscus syriacus)の枝皮や幹皮を用いる。一般に薬用には白花種が使われる。また花を木槿花、果実を木槿子といい薬用にする。

 日本には室町時代に中国から渡来し、ムクゲの和名は木槿皮の訓読みに基づく。四川省を主産地とするため川槿皮という別名もある。ちなみに土槿皮とはマツ科のイヌカラマツ(Pseudolarixamabilis)の樹皮の生薬名であるが、効能が木槿皮と似ていることから名付けられたといわれる。

 ムクゲの樹皮にはノナノン酸やタンニンなどが含まれ、抗菌・抗真菌作用がある。花蕾にはサポナリンが含まれる。漢方では清熱解毒・殺虫・止痒の効能があり、下痢や帯下、脱肛、皮膚炎、痔や脱肛などに用いる。

 一般にはチンキ剤とした水虫やタムシの治療薬としてよく知られ、日本でも市販されている水虫治療薬にはしばしば木槿皮エキスが配合されている。木槿花は半ば開花したときに摘み、乾燥させてから使用する。

 木槿花には清熱燥湿・涼血の効能があり、細菌性胃腸炎による下痢や嘔吐、下血などに用いる。木槿子は頭痛、片頭痛、咳嗽などの治療に用いる。

礞石

○礞石(もうせき)

 礞石といえば一般に青礞石のことを指すが、そのほか金礞石をいうこともある。青礞石は粘土鉱物のひとつで、緑泥石に曹長石が混ざった緑泥片岩(Chlorite schist)のことである。

 緑泥石は鉄、マグネシウム、アルミニウムなどを含む含水ケイ酸塩鉱物であり、多量の鉄を含むために通常は緑色であり、そのため緑泥片岩は青灰~灰緑色で、、真珠のような光沢を帯びている。一方、金礞石は雲母と石英、長石などを含む雲母片岩(Micaschist)であり、全体としては黄褐色で黄金色の光沢がある。とくに金礞石と指示のない場合は、礞石として青礞石を用いる。

 漢方では去痰・定驚の効能があり、頑固な痰塊や硬結、食積、腫瘤、ひきつけ、痙攣、精神病などに用いる。質量が重く、気を降ろす性質があり、「治驚利痰の聖薬」といわれている。癲癇や精神障害、痰が絡んだ呼吸困難のときには黄芩・沈香などと配合する(礞石榱痰丸)。

目木

○目木(めぎ)

 日本の関東地方以西、四国、九州に普通に分布するメギ科の落葉低木メギ(Berberis thunbergii)の枝や幹の木部を用いる。枝には鋭い刺があり、コトリトマラズとかヨロイドオシという別名もある。

 メギとは目木とも書き、目の病気に用いることに由来する。メギ属の植物には関東以西、四国、九州にみられるオオバメギ、東海、近畿などにみられるヘビノボラズ、日本、朝鮮、中国東北部にみられるヒロハヘビノボラズなどがあり、いずれもメギと同様に薬用にされる。また木部は折ると鮮黄色であり、メギの樹皮は黄色の染料としても利用された。

 メギの枝や幹、根にはアルカロイドのベルベリン、ベルマミン、オキシアカンチンなどが含まれ、非常に苦く、殺菌、苦味健胃作用がある。漢方では清熱燥湿・解毒の効能があり、下痢、黄疸、肺炎、結膜炎、腫れ物などに用いる。

 日本の民間では専ら結膜炎などの洗眼薬としてよく知られ、煎じた液をカーゼで濾し、脱脂綿などに浸して洗眼する。欧米では同属植物のセイヨウメギ(B.bulgaris(バーベリー:Barberry))の樹皮や根を下痢や尿路感染症、胆石症などの治療に用いている。

榠櫨

○榠櫨(めいさ)

 中国原産で日本や朝鮮半島、アメリカなどでも栽培されているバラ科の落葉高木カリン(Chaenomeles sinensis)の果実を用いる。中国では同じバラ科のボケ(C.speciosa)を木瓜(皺皮木瓜)といい、榠櫨のことを光皮木瓜ともいう。

 ところで日本薬局法外生薬規格においてカリンの果実を木瓜として規定しているため、現在、日本の市場で木瓜として流通しているのは実はこの榠櫨である。

 日本には江戸時代に中国から渡来し、樹皮が美しいため盆栽や庭木としてよく知られ、また木材は家具の材料としても利用されている。黄色い西洋梨に似たカリンの果実には芳香はあるが、味は渋く、酸味があり、固くて生で食べられないため、一般に砂糖漬けや果実酒として利用される。

 ちなみに中近東原産で古くからヨーロッパで栽培されているマルメロ(Cydoniaoblonga)の果実はカリンとよく似ており、長野県諏訪地方ではマルメロをカリンと誤称して扱っている。違いはカリンの果皮は滑らかであるが、マルメロの果皮には白い細毛が密生している。

 榠櫨は中国医学ではおもに去痰の効能があり、呼吸器疾患や悪心、下痢に用いる。中国ではあまり用いられていないが、日本漢方では専ら木瓜として利用している。ただし、中国医学でという木瓜の効能とは大きく異なるため、代用として適するか疑問である。

 日本の民間では焼酎につけたカリン酒を疲労回復に用いたり、煎じた液に砂糖や蜂蜜を加えて咳止めに用いている。

無名異

○無名異(むみょうい)

 水成鉱床に見られる軟マンガン鉱、パイロルーサイト(Pyrolusite)を用いる。黒褐色の直径1cm前後の球形で、表面は常に黄褐色の粉末に覆われている。主成分は二酸化マンガン(MnO2)であるが、そのほかに鉄、コバルト、ニッケルなどの夾雑物を含んでいる。

 漢方では活血化瘀・止痛・消腫・生肌の効能があり、打撲傷、切傷、腫れ物などに用いる。内服では丸剤、散剤として酒で服用する。また外傷の部位にはしばしば酒や酢で溶いて塗布する。

 日本では江戸時代より佐渡に産出する第二酸化鉄を多く含む赤土が、その効能と同じであるとして無名異と呼ばれてきた。さらにその赤土あるいは鉄の赤錆を用いた切り傷や打ち身の塗り薬は無名円と呼ばれてよく知られていた。現在でも、佐渡ではこの無名異を用いた伝統的な陶芸、無名異焼きが伝えられている。

無花果

○無花果(むかか)

 小アジア原産のクワ科の小高木イチジク(Ficus carica)の果実を用いる。中国では葉を無花果葉というが、日本では慣例的に唐柿葉と呼んでいる。

 イチジクは旧約聖書の創世記の中に登場するもので、栽培果樹としては世界最古の歴史を有する。中国には唐代になってから伝わり、日本には江戸時代に中国から渡来した。また20世紀のはじめにはアメリカから西洋イチジクという品種も導入された。

 ペルシア語「アンジール」から、中国語の映日(イェンジェイ)と音写されて「果(クォ)」が加えられた「映日果」が、イチジクの名の由来と考えられている。また唐柿とか南蛮柿という別名もある。

 無花果の名は外見上、花がみられないのに果実ができることにちなむが、実は果実と呼ばれるものが花托とその内面に密生する多数の花からできたものである。成熟した果実には豊富な栄養分が含まれ、食用にされる。とくに西洋では古くから好んで食べられ、地中海沿岸地方の干しイチジクは有名である。

 イチジクの果実には果糖やブドウ糖などの糖分、クエン酸などの有機酸、植物生長ホルモンのオーキシンベンズアルデヒドなどが含まれ、食物性の緩下作用が知られている。未熟果実や茎、葉からは白い乳液が出るが、これにはベンズアルデヒドやその誘導体が含まれ、制癌作用があると報告されている。葉にはクマリン類のベルカプテンやプソラレンが含まれ、血圧降下作用がある。

 漢方では清熱解毒・潤腸の効能があり、咽頭痛や声嗄れ、便秘、痔や腫れ物などのときに用いる。乾燥したものを煎じて服用するほか、果実を生で食べてもよい。また新鮮な果実から出る白乳液は外用薬として疣や痔の治療に用いる。ただし生の汁はかぶれやすいので注意が必要である。

 一般に痔の治療に葉を煎じた液で洗浄する方法がよく知られている。葉や枝を浴湯料として用いると、痔のほかにも神経痛や婦人病に効果がある。また生の葉を煎じたものはウジ殺しにも利用された。

ムイラプアマ

○ムイラプアマ

 南米アマゾン川流域に分布するボロボロノキ科の低木ムイラプアマ(Ptychopetalum olacoides)の根及び樹皮を用いる。ただし、ブラジルでムイラプアマと呼ばれている植物に、別のボロボロノキ科のLiriosma ovataもあり、同様の効能が謳われて商品化されている。

 アマゾン川流域のインディオ達は疲労回復や神経や筋肉の強壮剤として、またインポテンツの治療薬として利用してきた。20世紀のはじめに媚薬としてヨーロッパにもたらされ、内服用の流エキスや陰部浴剤として用いられた。

 根と樹皮には遊離脂肪酸や脂肪酸エステル、アルカロイドのムイラプアミンなどが含まれている。近年、男性だけでなく女性の性機能改善や月経不順、また神経衰弱や抑うつ認知症などにも用いられている。日本でも強精・強壮を目的としてドリンク剤や滋養強壮薬に配合されている。

 有効成分の多くは脂溶性であるためチンキ剤として利用するほうがよい。また、チンキ剤をリウマチや麻痺の患部にすり込んでマッサージする治療法もある