イヌサフラン
○イヌサフラン
北アフリカ、ヨーロッパ南部を原産とするユリ科の球根植物イヌサフラン(Colchicum autmnale)の種子(コルヒクム子)や根茎(コルヒクム根)を用いる。秋にサフランに似た花が咲くが、葉がないうちに花が咲くので「裸の貴婦人」という呼び名もあり、日本でも観賞用に栽培される。
古代エジプトにおいてイヌサフランを種々の痛みに用いたといわれているが、非常に有毒であるため、その後はあまり利用されなかった。摂取すれば嘔吐、下痢、皮膚の知覚障害、呼吸困難などが出現し、死に至ることがある。6世紀にヒマラヤ地方に成育するイヌサフランの近縁植物が痛風に効果があることが記述されているが、イヌサフランが薬用として注目されたのは18世紀以降である。フランスにおいて薬用酒が痛風の特効薬として売り出され、ヨーロッパ大陸やイギリスで大変よく売れた。
イヌサフランの全ての部位にアルカロイドのコルヒチンが含まれ、コルヒチンには中枢性の知覚麻痺、末梢性の血管麻痺作用があり、痛風の痛みに特異的に奏功する。コルヒチンは痛風の原因である尿酸の合成や排泄には作用せず、白血球の代謝活性を抑制し、尿酸の微細結晶に対する食作用を減少させ、結晶沈着の循環を阻害すると説明されている。
ヨーロッパではチンキ剤として、日本では精製した純品が痛風の治療に用いられている。近年ではベーチェット病の眼症状の治療にも用いられる。副作用として悪心や嘔吐、下痢、脱毛などがみられる。このほかコルヒチンは植物の細胞分裂を妨げるが、染色体の分裂は阻害しないため染色体数を倍化させる特異な性質があり、種なしスイカや収穫量の多いワタなど新品種の開発などに応用されている。